TECHNICAL INFORMATION

薄膜の物理強度評価方法に関し

薄膜の密着力や摩擦摩耗を評価する各種試験方法の概要と適用規格の紹介、及びレスカで装置化している関連試験機を紹介をいたします。

材料や製品の表面は、外部からの力学的刺激を受けやすい為、保護コーティングやPVD・CVD等による膜が形成さていることが多くあります。これらの保護膜は、外部要因から基材を守るために、これらの外部要因に影響を受けないだけの物理強度が必要とされています。それら物理強度の中から、膜と基材の密着強度(付着力)と摩擦摩耗の評価方法に関しご報告いたします。

付着性(密着性)

付着とは、界面に生じる薄膜原子と基板原子の間に生じる相互作用を指します。
この界面における自由エネルギーを、薄膜の表面自由エネルギーと基板の表面自由エネルギーで表したFowkesの近似式を下記に示します。

界面(薄膜と基板がくっつく)の状態から、薄膜と基板の二つに別けるのに必要となるエネルギーが付着エネルギーと考えられ、薄膜の表面自由エネルギーと基板の表面自由エネルギーの合計と界面自由エネルギーの差が付着エネルギーと考えられます。これに上記の近似式を代入すると、付着エネルギーは下記の式のように、薄膜及び基板の表面自由エネルギーが高いほどくっつきやすいと想定されます。

付着力(密着力)評価方法

膜の密着力(付着力)評価法として、碁盤目試験(クロスカット法)、引張り試験、引き剥がし法、スクラッチ法が一般的に用いられます。これらの測定方法に加え、薄膜を対象としたマイクロスクラッチ法の測定概要を以下に示します。

碁盤目試験(クロスカット法)

JIS K5600(塗料一般試験方法)及びJIS D0202(自動車部品の塗膜通則)に準拠
膜の表面に鋭利な刃物を用いて数mm角の碁盤目状の切れ込みをいれ、粘着テープを密着させます。粘着テープを引き剥がしたときに、粘着テープについた膜の小辺の数で、密着強度(密着力・付着強度)の指標とする方法であります。定量的な評価が難しく、又粘着テープの粘着力よりも高い密着強度(密着力・付着力)の膜に対しては応用することができません。

引張り試験

作成された膜に対し棒を垂直に接着し、棒を垂直方向に引っ張ったり(直接引き剥がし法)、棒を横に引き倒したり(引き倒し法)又は、棒をねじったり(ねじり法)することで、膜を剥ぎ取りその際に必要とした力を求めます。得られた力(F)から膜界面に作用する最大応力として密着強度(f)は以下の式で求められます。(棒の半径をr、棒の高さをh)

  • 直接引き剥がし法(f=F/πr2)
  • 引き倒し法(f=4Fh/πr3)
  • ねじり法(f=3F/2πr3)

本評価法においても棒を膜に接着する必要があり、碁盤目剥離法同様接着剤以上の密着強度を有する膜に対しては応用することができません。

スクラッチ法

ISO 20502(引っかき試験によるセラミックコーティングの密着性測定)に準拠

本評価法は、機械工具の超合金皮膜をはじめとする高い密着強度(密着力・付着力)の膜に対して応用可能です。一定の曲率半径を持つ硬い(ダイヤモンド)圧子を膜面に押付け(図1)、荷重を増加させながら膜面を引っ掻き、膜の破壊が発生する荷重値(臨界荷重値)から密着強度(密着力・付着力)を求めます。この際、膜の破壊を検出する方法として、ロードセルを用い摩擦力の変化をモニタリングし、破壊に伴う摩擦力の変化を検出します。他にもマイクロホンにより破壊に伴う音を検出する方法もあります。どちらの方法を用いた場合も、破壊を推測することは可能ですが、確実性を高める為、顕微鏡等を用いスクラッチ痕を観察し、破壊した地点の特定が必要とされています。尚、顕微鏡でのスクラッチ痕の観察においては、①亀裂などの異常が発生した点、②膜の剥離が開始した点、③接触部位の膜が全て剥離を開始した点、など各種の判定基準があり、目的によってそれらを選択する必要があります。得られた臨界荷重値(W)から圧痕周縁部の界面で作用する最大応力として密着強度(f)は以下の式で求められます。

関連試験機

  • 厚膜や硬質皮膜等の本機では剥離を発生させられない膜に最大30kgまでの荷重印加が可能なスクラッチ試験機

マイクロスクラッチ法

JIS R3255(ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法)に準拠

超薄膜スクラッチ試験機の測定原理

本評価法は高い密着強度(密着力・付着力)の膜に対して有効な測定法であるスクラッチ法を応用し、光学用薄膜あるいは集積回路、磁気ディスク用保護膜等1μm以下の薄い膜を対象とした評価法です。本評価法における測定原理は先述のスクラッチ法と同様ですが、破壊の検出方法と荷重の増加方法に特徴があります。スクラッチ法では、破壊を検出する方法としてロードセル(摩擦力)、マイクロホン(音)を用いていたが、膜厚が薄くなると、破壊に伴う摩擦力の変化や音が微小となる為、本評価法ではまったく異なる検出部を採用しています。(図2)センサ全体をX軸方向に30Hzで励振させた状態で先端に取り付けられた圧子を膜面に押付けます。この時圧子と膜面の間に生じる摩擦力によりカートリッジ本体と圧子の相対位置が変化し、摩擦力に比例した電圧信号を発生させます。又、圧子を膜面に押付ける荷重を増加させる方法として、測定対象物を傾斜させY軸方向に移動し、圧子がせり上げられ、圧子を取り付けられたアーム(バネ)を介し測定対象物に垂直荷重を印加してゆきます。垂直荷重の増加に伴い、電圧信号が増加し、臨界荷重に達すると膜の破壊が発生致します。破損表面の凹凸が電気信号に変化をもたらす事で破壊点を検出致します。

関連試験機

摩擦摩耗評価法

密着強度(密着力・付着力)の評価法が、膜に対する力学的刺激を増大させることで膜の破壊を発生させるのに対し、摩擦摩耗の評価法では、膜に一定の圧力を加えた状態で複数回の摺動を行うことで膜の破壊を発生させます。例えば評価対象物を回転ステージ上に固定し、回転中心からずらした地点に一定荷重で膜に試料ボールを押付ける。(図3)この状態でステージを回転させる事で、試料ボールと膜の間に生じる摩擦力により、試料ボールが回転方向に引っ張られる。この力を応力センサで検出し、印加した荷重値で割ることで摩擦係数を算出致します。本方式では、雰囲気・温度・湿度・相手材・荷重・速度等を実際の使用環境に模擬することができます。特に破壊を伴う測定法では、破壊様式の解明が難しく、実際の環境下における実際と同様の破壊様式による評価は現実に即した測定法といえます。

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